【インタビュー】It’s a piece of cake
──はじめに、この曲を作ろうと思った最初のきっかけから聞かせてください。
にしな:作ったきっかけは、よく一緒に曲作ったりアレンジしてもらってる音楽の仲間の方たちと遊んだ時に、うろ覚えですけど季節は冬か夏ではなかったような、その方たちと飲みに行って、で終電逃して、井の頭公園で話してたんですよ。そこで話したりしたこととか、楽しいなあっていう気持ちを、帰ってすぐに書き留めつつ、で、私どの曲もわりとけっこう時間かけてマイペースに作ることが多いので、ゆっくり完成させていったという感じでした。アレンジしようか、レコーディングしようかとなったのは年末とかだったのかなって思います。
──昨年から今年の頭にかけて、「クランベリージャムをかけて」「シュガースポット」「bugs」と新機軸の曲を次々とリリースしてきた流れの中で、今この曲を出したい、完成させたい、と思ったのはどうしてだったんでしょう?
にしな:今回ツアーをするにあたって未発表の新曲がないなって思う中で、ツアーの「Feeling」というテーマに対して、「あ、この曲だ」って思って間に合わせました。と言っても、ツアーが始まる時は今のアレンジは全然完成していなくて、弾き語りの基盤だけシェアして。セッションっぽくラフな感じでやるのが、今回のツアーの空気に合うなって。
──もしかしたら今回の新曲と繋がってくるかもしれないと思ったのですが、今回ツアータイトルを「Feeling」にした背景にはどういう想いがあったんですか?
にしな:前回のツアー「クランベリジャムをかけて」を経て、次どうしたいかな?と思った時に、前回はわりとごちゃごちゃにしたいなという思いがあったんですけど、今回はもっとラフにできたらいいなって考えてて。これまで生きてきてもそうですし、音楽作ってきてもそうですし、自分の中でフィーリングって、その曖昧さを含めてすごく大切だなって、より実感してきてるタイミングではあったので。今回、「Feeling」というツアータイトルを付けました。
──例えば、「クランベリージャムをかけて」「シュガースポット」「bugs」という流れで今回の新曲を聴くと、にしな さんの足取りが、より自由に、より軽やかになっているように感じます。きっと、その足取りは「Feeling」という言葉とリンクしているところがあるのかなと思いました。
にしな:確実に、より軽やかに自由にやれてるし、そうでいいんだって自分自身思えるようになりました。それが何でかって言われたら、本当に周りのスタッフの方々が自由にさせてくれて、自分のやり方を大切にしながら広げていってくれて、そして、ライブをする中で、私の音楽を聴いてくれてる人のことを目に見て取ることができて。周りの方々が肯定してくれて、そうなれてるだろうなっていうのはすごい思います。
──特に去年は、ライブやフェスのステージに立つ経験をたくさん積み重ねてきましたもんね。
にしな:それこそフェスなんて、自分の音楽を知らない人もそうですし、もちろん自分のことを聞いてくれてる人もそうですし、誰を見に来てるか関係なく自由に楽しんでくれていて、そしたら私も「ああ、自由にやっていいんだ」と思えて。ステージに立ってはいるけど、私も含めてみんなそれぞれ「1」というか、そういう気持ちになれたし。本当に、この自由な気持ちはみんなが与えてくれている気がします。
──編曲を手掛けたトオミヨウさんとは、これまで「ヘビースモーク」「青藍遊泳」などでタッグを組んでいますが、今回、トオミさんにお願いしたのはどういう経緯があったんですか?
にしな:トオミさんは、本当に楽曲を素敵にしてくださる方だなと思ってて。それこそ、自分の中で真ん中に刺したい曲も信頼してお預けできる方ですし、それとは別に、なんかちょっと遊び心があって小脇に抱えておきたいような曲も、トオミさんはすごく得意なイメージがあって。きっとこの曲を素敵にしてくださる方なんじゃないかなと思ってお願いしました。
──それでいうと、今回の新曲は後者の位置付けですか?
にしな:そうですね。次に出す曲として、良い意味でシンプルっぽさ、余白がある曲が欲しいなって思っていて。で、ちょっと季節が変わっていく切なさと、でもまあ「なんとかなるよね」って思える前向きさ、そういう空気感を大切にしたいです、とお伝えして。あとは、私の曲でありつつ、みんなが小脇に抱えられる曲になったら嬉しいなと思ったので、それこそライブで育っていったら嬉しいし、一緒に歌える曲にしたいです、とお話しして、それが今のアレンジに繋がっていきました。
──小脇に抱えるって、すごく素敵な表現だなと思います。歌詞の話に繋がるんですけど、〈一人で歩いてく 不揃いのそれぞれで〉〈一歩ずつ進んでく 小さなそれぞれで〉という歌詞を聴いた時にパレードのような光景が思い浮かんで、そのイメージと、小脇に抱えるっていう表現がすごくマッチするように感じました。例えば、J-POPの歌の中には、「みんなで一緒に」「みんなで心を一つに」と歌う曲が多いじゃないですか。でも、にしな さんは、パレードのようにみんなが歩いているという大きな意味で言うと一緒なのかもしれないけど、でも、やっぱりみんな結局は一人である、ということを歌っていて。その真理から目を逸らさないところが、にしな さんらしさなのかなと思います。
にしな:そうですね。すごくそれは自分の中に根本的にある価値観ではあって、「みんなで一緒に」「心を一つに」というメッセージはすごく素敵なものだと思うし、そう歌えたら一番かもしれないんですけど、なんか天邪鬼な部分があるので、「嘘つけ!」ってなるんですよ。だって、私はみんなの気持ちを察したり、コミュニケーションの中でこう思ってるんだろうなって想像したりすることはできるけど、本当の意味では知らないし、そういう意味で言ったら私の気持ちも本当は誰も知らないし。それは捉え方によってはすごく切ないけど、でもだからこそ。みんなの中に愛があるんだろうなっていうふうに思うんで。「1」としてあること。それぞれが「1」だから素晴らしいなっていう価値観が自分の中にはあって、それがここに歌詞に出てるのかなとは思います。
──そういう世界の見方やものの考え方は、多かれ少なかれ誰しもが根っこに持っているものなんだろうなと思っていて、その前提から目を逸らさず、その上でメッセージを届けようっていうにしな さんのスタンスは、すごく優しいし、何より信頼できるなと思います。
にしな:嬉しいです。あんま、優しくないんですけどね。「そっちはそっちでやって」みたいな。(笑)
──既にこの曲は、ツアーの各会場で披露していると思いますが、ライブでこの曲を歌う時に、どんなことを大切にしているのか、どんなことを考えているのかを聞いてみたいです。
にしな:本当に、この曲は、その日ごと、会場ごとによって全然違う感じになってるので。
──それはお客さんのリアクションだったり、にしな さんを含めたバンドメンバーのテンションやアンサンブルだったり。
にしな:両方ですね。メロディーをどう歌うかとかも、何も考えずに毎回挑んでいて。みんながどうしてくれるかでこっちがどうするかが変わってきたり。毎回楽しいです。
──その場、その時限りのフィーリングを感じ合っていると。
にしな:毎回感じ合って、その上で私は、ちょこんっていう気持ちで歌ってます。なんか、「1」っていう私からピョンみたいな、みんなそれぞれの「1」から、もうピョンみたいな、ピョンピョンピョンピョンって。
──エネルギーの交換というか、気持ちの往来というか。
にしな:そうですね。合ってます。(笑)この曲はクリックに支配されてなくて、本当にフリーでやってて。お互い感じ合わなきゃ成り立たないので。バンドメンバーの音もそうですし、お客さんにも耳を澄まして、一緒に感じながら作り上げていってます。
あとは、今回のツアーにこの曲を持ってきた理由で言うと、もともとデビューする前に弾き語りをやっていた時って、リリースとかなかったので、自分で曲を作って、作りかけでも人前で披露して、で、みんながどんな感じか見ながら完成させていっていたんですよね。そのラフさが自分には合ってるし、そういうことをしたいっていうのはずっとマネージャーさんとかに言ってて。あまりにも完成してなさすぎるとやっぱちょっと不安ですけど、でもこの曲ならできるかな?って。みんなで完成させていくっていう気持ちでやりたいなって。私は自分のフィーリングを出すから、みんなもみんなのフィーリングを、バンドメンバーもそれぞれのフィーリングを出してくれ、っていう感じですね。
──リリースされた後、この曲のライブパフォーマンスがどのように変わっていくかも楽しみですもんね。
にしな:楽しみですね。音源は、それこそ最後のパートにいろんな人の声を入れてもらっていて、それはやっぱりみんなで歌えるようにしたかったからなので、音源を聴いたらきっとお客さんの出方も変わるだろうし、だからすごく楽しみです。
──もう一つ聞きたかったのが、2番の後半に、〈音楽なんかなくて生きていけるのに どうして僕らはまた求めるんだろう そんなくだらんこと出会えて本当によかった〉という一節があるじゃないですか。にしな さんが曲の中で、自身の音楽論、音楽観について書いているのってすごく珍しいなと思って。
にしな:そうですね。なんかまあ、小さい頃から音楽好きでたくさん聴いてきて、きっと救われてきた部分もあるんですけど、でも、良い意味でしょせん音楽は音楽だし、という気持ちが根本的にあって。これまで、「あなたにとって音楽とは?」という質問に対していろいろなミュージシャンの方が答えているのをたくさん見てきたけど、けっこう前に、誰かが「音楽なんか別にしょうもないものだし、だからこそ楽しい」って答えているのを見て、私自身すごく共鳴する部分があって。それ以来、自分の中の大切な価値観というか、それこそ、さっき自由度が上がったって言っていただいたんですけど、くだらないからこそ自由にできるし、不真面目に楽しくやれている、という気持ちもあるかもしれません。
──〈音楽なんかなくて生きていけるのに どうして僕らはまた求めるんだろう〉という問いかけに対する答えは、この曲の中では明確に歌われていないし、歌う必要もなかったと思うんですけど、でもこの歌は、ライブに来てくれる人、サブスクで聴いてくれてる人たちの、くだらないけど、でも音楽を求めちゃうよねっていう人の気持ちにすごいフィットするというか。何かを力強く明言しているわけではないけど、すごく共感できる部分があると思います。
にしな:逆に言うと、なきゃ生きていけないものって実はほとんどないのかもしれないと思うんですけど、でもその中で、会いに行く人とか、聴くものとか、身に付けるものって、まあ純粋に、心の奥底にあるただの感情というか、それこそフィーリングみたいな話ですけど、理由がないけど、そういうものってとても愛しいよなっていうふうには思ってますね。
──裏を返すと、にしな さんの音楽を聴いたり、ライブを観に来てくれる人たちの中には、にしな さんの音楽をそういうものとして受け止めている人も多いのではないかと思います。
にしな:すごい幸せなことで嬉しいことだなって思う気持ちはもちろんありつつ、でも、私自身がそうなろうと思ってそうはしていないっていうのが純粋な気持ちというか。それこそ、気に入ってくれるんだったら、それは音楽をやる上ですごく幸せなことだけど、じゃあ、この人生のタームでは必要ないってなったら、その時のその人の人生に他の何か素晴らしいものがあるということだと思うので、それはそれで幸せなことなんだろうなって思いますね。自分で音楽を作ってて、ちょっと変な話なのかもしれないけど。(笑)
──一人ひとりがそれぞれ歩いていく。その時に、必要であればにしな さんの音楽を小脇に抱えて行くし、別の何かを手にする必要がある時は一度置いておく。でも、いつかまたにしな さんの音楽を手に取って小脇に抱えて歩き始める時も来るかもしれないですよね。
にしな:みんなが進む時には、私もきっとどこかを進んでて、いつかタイミングが合ったら「あ!」ってなったり。(笑)
──二転三転して戻ってきますけど、だからこそ、ライブやフェスの時間・空間って、すごくかけがえのないものですよね。にしな さんが好き、もしくは、一目見てみたいっていう意味では一緒だけど、その前日にどんなことがあったとか、どんな明日が待っているかは本当にみんな違うし、何より、その人たち全員が一堂に介する機会って、よっぽどのことがない限りその一回だけですもんね。
にしな:ほんと、同じ人たちが同じ場所に集まることなんて、この先一生ないかも。うん、そうですよね。すごく素敵な空間だなって思います。
──今後、いろいろなライブ会場やフェスでこの曲を披露するのが楽しみですね。
にしな:うん、すごい楽しみですね。それこそなんか、みんな「1」「1」「1」がぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんって。ぴょんぴょんしてんなぁと思いながら歌うかもしれないです。
──それで、ライブが終わったら、またそれぞれがこの曲を小脇に抱えて、それぞれの日常に戻っていくと。
にしな:うん、本当に自由にライブを楽しんでほしいっていう気持ちはありつつ、ライブが終わった後も、これは自分自身に対しても思うことでもあるんですけど、まあ、上がったり下がったりそれぞれあるんで、なんか、最後「へへっ」ってはにかめたらいいなあ、みたいな。例えば嫌なことがあっても、どうせ一生は続かないし、「へへっ」ってできるタイミングは絶対来るじゃないですか。辛い時に下向きがちだけど、「へへっ」ってできるタイミングを自分で見つけて、あんま深く考えすぎずヘラヘラできたらいいなって思いながら作ったので、みんなにもこの曲も楽しんでもらいたいし、それぞれの日々をエンジョイしてくれたらいいのではないかなって思います。
Interviewed by Tsuyoshi Matsumoto