【インタビュー】debbie
――「debbie」。これは映画『ずっと独身でいるつもり?』の主題歌となっています。
にしな:「これはもともと、コロナもあって家にこもっていたときに作った曲をもとに作っていった曲なんです。ビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビイ』という曲をモチーフにして、そこに自分自身をなぞらえて書いていきました。音楽を作っていて、うまくいってるときはいいけどやっぱりうまくいかないときもあるし、闇に落ちていく感覚を覚えることもあって。ビル・エヴァンスも苦しみながら、姪っ子のデビイに向けて『ワルツ・フォー・デビイ』を書いたんですよね。彼は何を思ってこの曲を作っていたんだろうなと考えながら書いていきましたね」
――音楽を作る苦しさみたいなものにシンパシーを感じた、と。
にしな:「ピュアに音楽を作りたい気持ちもあるけど、でもうまくいかなくて苦しみ、もがく気持ちもあって。でもそれって音楽にかぎったことではないし、私以外もみんなもっている、人間としての弱さなのかもしれないと思うんです」
――曲を書いて、その苦しみはどう変わりました?
にしな:「吐き出すことによってちょっと楽になった部分も、もしかしたらあったのかもしれないですけど……答えだったり、解決みたいな感じはなかったです。その苦しみは薄まったり強まったり、忘れたり思い出したりしながら、ずっと続いていくんだろうなって思います」
――それが映画の主題歌になって。最初に話を聞いたときにはどういうことを思いましたか?
にしな:「映画で楽曲が流れるというのも初めてだったので、ちゃんとうまくはまるのかな、大丈夫かなっていう心配が最初は大きかったですね。でも観せていただいたら素敵に使っていただいていて。ありがたいなって思いました。エンドロールで曲が流れてきたときに、自分の捉えていたものと違う捉え方で聞こえてきて、『こうやって聞こえるんだ』って、嬉しい発見がありました」
――ちなみに映画はどうでした?
にしな:「映画に登場する女性たちのたくましさを感じました。嫌なことを言われても、賢く麗しく、笑って乗り越えていく姿に共感したというか。理解できるし、励まされるものがあるし、『わかるな』って思える映画でした」
――この曲の〈孤独すらも突き放せば/私は闇夜に紛れてどこまでも飛んで行ける?〉という歌詞がすごく切ないと思うんですけど、これはにしなさんのなかではどういう感情を歌った言葉なんですか?
にしな:「うまく言えないですけど、たとえば、死ぬことが怖くない人もいるけど、ちょっと怖いってもし思っていたとしたら……死ぬって孤独な作業じゃないですか。でもそれすらも突き放せたら、その先にもっと違うところに遠くまでいけるかもしれないっていう気持ちでしたね」
――でもそれができないから苦しんでるんだっていう。〈儚く枯れ落ちる/刺のある花より密やかに/毒にまみれた春になりたい〉という歌詞もすごくいろんなことを考えさせる言葉です。
にしな:「さっきの映画の話ともちょっと繋がるんですけど、何かを言われたときに、それに対して自分が思っていることをまっすぐ伝える正義もあるけど、戦い方はそれだけじゃない。もっとしたたかに、嘘をついてでもいいから、それを包み込んで花を咲かせたい……っていうことを書きました」
――苦しんで枯れていくんじゃなくて、その苦しみも糧にしてもっとでっかいものになるんだぞみたいな。それがもっと大きな花を咲かせることにつながるっていうことですかね。
にしな:「うん、そういうニュアンスですね」
――そういう心情ともリンクすると思うんですけど、この曲には〈闇夜〉という言葉が出てくるじゃないですか。「夜になって」もまさにそうなんですけど、にしなさんって「夜」を描くことが多いですよね。
にしな:「確かに……なんなんでしょうね。私、結構早寝早起きなんですけどね(笑)。最近は深夜に曲を書くことはあまりないです。だからなんでなんだろうって自分でも思うんですけど……昔からなんとなく、幸せな日曜日の雰囲気は苦手なんです。だから、まだ暗い朝とか夜とかが多くなるのかな」
――うん。やっぱり、夜にしか生まれない感情を見つめて歌にし続けるっていうことを、にしなっていう人はある種自分に課しているような気もする。
にしな:「ハッピーよりもちょっと暗い方が人間味があって好きなんですよね。そういう感情がちょっと暗い時間帯に似ているっていうのはあるかもしれないです」
――そうやって曲を書くというのは、にしなさんにとってはしんどいことなんですか?
にしな:「結構しんどくなるタイプですね。感情的にも理性的にも。産みの苦しさもあるし、『debbie』みたいに実際にその苦しみを吐露してる曲は、更に自分で共感していって考えすぎて苦しくなったりします。苦しいことは多いですね。なんかすごい夢がなくて嫌ですけど、自分が書けなくなるのが怖いんです。だから曲が出てこないときは怖いしつらい」
――でもいつの間にかまた書けるようになっているわけだよね。
にしな:「そうですね、時間が経つと。たぶんちょっと記憶力が悪くて、忘れちゃうんですよ。自分がつらかったことも。だから考えないようにするんです。書きたくなかったら書かないようにして。それで時間が経つと、今書かなきゃいけないとか、今は書くときだなと思うときがあるんです。そういうときになるべく書くようにしよう、とか」
――「debbie」はどうだったんですか?
にしな:「『debbie』はたぶん冒頭を書いていて、ちょっと置いて、また書こうって思って書いて……っていうふうに、時間がちょっとかかったような気がします。一旦置きながら、忘れながら、また思い出して。そうやって書いていきましたね」
――そうやって書いた曲が、映画の主題歌になって。今まで以上に多くの人に届いていくことになりそうですね。
にしな:「そうですね。でも究極、曲を出して歌い続けるだけが私のやることだと思ってるので。それに対して皆さんがどう反応してくれるかはあんまり考えていないというか、考えられないというか。いい曲書かなきゃなって……いい曲っていうか、曲を書くっていうことに向き合わなきゃなって思ってます」
――向き合うっていう意味では、「debbie」には今までにないくらいのストレートさを感じたんです。『odds and ends』を出してからもう半年ぐらいですけど、自分の曲が変わってきた感じはしますか?
にしな:「確かに変わってきてる部分もある気はします。何が変わったって言われたらわからないんですけど。でも多分確実に、何か変わってるんだろうなっていうふうには感じてはいます。この曲は特にそうなんですけど、構成とかはあまり考えないで書いた気がします」
――そう。説明とか前提無しに、いきなり真ん中に投げ込んでいくような感じがする。
にしな:「たしかに、そうですね。そう言われると、説明とか前程ありの曲もまた書こうと思います(笑)今も曲をいろいろ書いているんです。DTMを始めたんですけど、それで曲を作ってみたりして。楽しいなって思いながらやってます。そういうものも今後見せていけたらなって思っています」
Interviewed by Tomohiro Ogawa