【インタビュー】odds and ends

――にしなさんが音楽を始めるようになったきっかけを教えて下さい。

にしな:ちゃんと活動を始めたのは高校2年生の頃にレコード会社の無料レッスンが受けられるオーディションに応募したのがきっかけですね。

――それまでもミュージシャンになりたいという気持ちはありましたか?

にしな:歌が好きという気持ちはずっとあったんですけど、人前でなにかするという事に恥ずかしいという気持ちがあって。でも、一緒にレッスンを受けていた子たちが恥ずかしからず積極的に音楽を取り組んでいる姿を見て、それに背中を押される形で私も真剣に取り組むようになりました。曲を作り始めたのもそのレッスンが終わった頃くらいからですね。

――その後、一人での弾き語りなど様々な活動をされていましたが、どういったところにモチベーションを見つけましたか?

にしな:やっぱり歌うことが好きだなという気持ちが一番大きいと思います。あとはライブをやっていく中で、少しずつ私の歌を「好きだよ」って言ってくださる人が増えて。もっといい曲を書きたいなと思うようになりました。

――ちなみに音楽以外への興味はありましたか?

にしな:そうですね。音楽だけでやっていける自信はなかったので就職することも視野には入れていました。メディア関係の仕事に興味があったので情報コミュニケーション学部のある大学に進学しました。でも、今のマネージャーさんと出会ったのが大学2年生の後半で、まだ岐路に立つ前だったので就職活動をするかどうかで悩むことはなかったですね。

――ファースト・アルバムのタイトルを「odds and ends」した理由を教えて下さい。

にしな:このアルバムが、私にとって、これからを縫い合わせていくひとつのパーツになって欲しいという思いと、聴いてくれる誰かにとって、人生を豊かにするガラクタの様なものになって欲しいという思いが込められています。

――「odds and ends」は、にしなさんにとってどんなアルバムになりましたか?

にしな:初めてのアルバム、誰かにとって、大切な1枚になっていただけたら嬉しいです。
あと、2018年の4月7日にこのアルバムにも入っている「ヘビースモーク」という曲を初めてYouTubeにアップしたのですが、本当にたまたまなのですが3年後の同じ日4月7日にアルバムを発売することとなり、不思議な縁を感じています。

1.秘密基地

――シンプルで素朴な弾き語りの楽曲ですが、この曲が生まれた背景を教えて下さい。

にしな:想い出を詰め込みながら、誰にも分からない言葉で曲を作りたかったんです。「魔法をかけた空っぽのマッチ箱 閉じ込めたハリネズミ」って意味分かんないじゃないですか。そういう私だけが持っている記憶がベースになっている曲です。あと、この曲を聴いてくれた人から「双子のことを思い出す」という言葉をもらって、私は私にしか分からない言葉で書いてはいるんですが、そんなふうに色んな人にとっての誰かや何かになれる曲だったらいいなと思います。

――実際にレコーディングは部屋でやっているんですか?

にしな:これは群馬のレコーディング・スタジオでやっています。普通のスタジオじゃなくて本当に秘密基地みたいなところでできたら、って探してきてくれました。

――確かに秘密基地で歌っているような空気感がありますね。この曲をアルバムの1曲目にした理由はありますか?

にしな:この曲はアルバムの中で一番着飾ってない曲だと思うんです。2番もないし。この未完成な感じがオープニングにはいいなと思って。

――このデモっぽい曲からにしなさんとアルバムと物語が始まっていくような印象を受けました。にしなさんにとって弾き語りはどういうものですか?バンドとの違いはありますか?

にしな:弾き語りもバンドもどちらも楽しいんですが、私にとって弾き語りは本を読んでる感じに近いんです。弾き語りは言葉と歌とギターだけと要素がとても少ないので、その削ぎ落とした良さ、みたいなものものが本に近いのかなと思います。バンドはもっとみんなで音楽を楽しんでいる感じがします。

――弾き語りで活動を始めて、今は音源にはアレンジが入って、ライブもバンドでの演奏が中心になると思いますが、今後、にしなさんにとって弾き語りでの活動や表現はどうなっていくと思いますか?

にしな:音源やライブでどうなっていくかはまだ分かりませんが、私は曲作りをギターでやっているのでずっと自分のベースになっていくと思います。あと、一人でもやれる人は強いし、きっとそういう人は他の人と合わせてもカッコよくなれると思うんです。なので、これからも弾き語りでもしっかり表現できる人になりたいなと思っています。

2.ランデブー

――このランデブーは「恋人がデートする」という意味と「宇宙船どうしが宇宙空間で接近する」という意味のダブルミーニングを曲にしたものですよね。どういうきっかけで書いた曲ですか?

にしな:まず「run run rendez-voused」と「you are my amai darling」という言葉を歌いたかったところからスタートしました。語感がいいなと思って。そこから「ランデブーってどういう意味なんだろ?」って調べながら、自分の気持を足しながら作った曲です。

――宇宙の映像が頭の中に浮かんでくるような歌詞ですが、実際に頭の中でイメージを膨らましながら書いたんでしょうか?

にしな:そうですね。宇宙(スペース)とPCの世界を繋げたいと思って「スペースキー」からスタートさせたり、自分の中で男女を動かしたりして歌詞にしていきました。スペースキーを叩くと自分たちがパソコンの画面の中に吸い込まれて行くイメージを持って書いたので、最初にキーボードを叩く音を入れてほしいとアレンジャーの横山さんにもお伝えしました。

――普段も頭の中でストーリーを作りながら作詞していくことが多いんですかね?

にしな:そうですね、あとは好きなワードとか。このワードの後にこのワードが来たらキュンとするな、みたいなところから組み立てていったり。

――ランデブーの歌詞の中で特に気に入ってるワードはありますか?

にしな:「相対速度は0になって」と「貴方は私で君は僕」ですかね。

――「相対速度は0になって」は、ロマンチックな雰囲気がありますよね。物理や理科は好きでしたか?

にしな:図鑑とかをたくさん読んでたという感じではなかったですけど、勉強している中では理科が好きでしたね(笑)。

――あとにしなさんの歌詞は四字熟語が頻繁に使われています。「相対速度」「完全無欠」「月面着陸」「宇宙空間」「予測不能」などこの曲は特に多いですね。

にしな:この曲はランデブーというワードから連想させてそういう言葉にたどり着いたんだと思います。語感の良い言葉が頭の中に残っていて気づいたらそういう言葉が多くなっているのかもしれませんね。

――途中で早口になるところもこの曲の大きなポイントですね。「始まったよう」「絡まった夜」、「急に」「地球儀」としっかり韻も踏んでいます。

にしな:昔からラップ調になっていくものが好きで、メロディとか歌を作っていたら「ここからは早くしたい!」ってなるんだと思います(笑)。緩急があったほうが歌っていて楽しいですしね。

3.真白

――「真白」はバンドサウンドが全面に出てたシリアスな楽曲となっています。

にしな:この曲は最初にAメロとギターの音だけがあって、そこから語感を意識しながら作っていきました。歌っていて気持ちの良い所をなぞりながらって感じですね。

――Aメロの頭の「バイバイ」「泣いた」「ライター」「会いた」は母音が揃って聴いていても気持ちが良いですね。いわゆる頭韻というものになっていますが、ヒップホップやラップは聴きますか?

にしな:二人好きなラッパーさんがいます!鎮座ドープネスさんと呂布カルマさんが好きです。

――意外ですね(笑)。お二人のどういう所が好きですか?

にしな:呂布カルマさんは、芸術的で世界観のある歌詞が好きです。鎮座ドープネスさんはフリースタイルの動画がすごくカッコよくて、素敵だなと思いました。

――ちなみに影響を受けたアーティストはいますか?これまでにどんな音楽を聴いていましたか?

にしな:一番はコブクロさんからの影響が大きいと思います。あと小学生の頃は眠る時にずっとカセットテープで音楽を聴いていたのですが、大体スピッツかマッキー(槇原敬之)でしたね。A面がスピッツでB面がマッキー(笑)。あと母は洋楽が好きで、家ではブラック・ミュージック系の洋楽がよくかかっていました。

――バンド系はどうですか?

にしな:中学生くらいの頃は音数の多い音楽が聞けなくて、弾き語り系の音楽が中心でしたが、高校生くらいからバンド系も色々と聴くようになりました。クリープハイプ、マイヘア、RADWIMPS、きのこ帝国、チャットモンチーとか。

――「真白」はテレビドラマの主題歌になっても違和感のないくらい、J-POP的な楽曲だと思いました。このアレンジができた時はどういう印象を持ちましたか?

にしな:かなりイメージが具体的な曲になったので、この曲が人にはどう聴こえるんだろう?という気持ちはありましたね。

――歌詞はドラマや漫画など何かモチーフがあるのでしょうか?

にしな:テレビはほとんど見ないですね……..。どちらかと歌詞は写真や言葉からイメージを膨らますことが多いですね。小説で呼んだ風景とか好きな風景画とか、まず景色があって、そこに人物を登場させて、その行動を辿って見える風景や物語を歌詞にしているという感じでしょうか。

4.夜間飛行

――この曲はずっと弾き語りでやっていた曲とのことですが、それをShin Sakiuraさんがアレンジしてくれた楽曲ですね。浮遊感のあるエレクトロ調の楽曲ですごくオシャレな仕上がりになっていますが、このアレンジができた時はいかがでしたか?

にしな:この曲は2年くらい前に作った曲で、ライブを続けていくうちに(リズムが)後ノリになっちゃっていて。それに気付かず後ろノリで録った仮歌をShinさんに送ってしまって。最初にアレンジを貰った時に「素敵なんだけど、なんか違うぞ?」ってなっちゃったんですよね。後ノリだとどうしてもイメージしていたエレクトロの軽快感が出なくて。そこから仮歌を録り直して、Shinさんにはかなり色々と調整してもらいました。ジワジワとイメージしていたものに近づいて、喜びもじんわり〜みたいな感じでした(笑)。

――弾き語りで作っている時は何かしらアレンジのイメージもあるのでしょうか?

にしな:うーん。曲を作っている時はあんまりなくて「この曲はこういう雰囲気」とかボンヤリしたものだけあります。私はアレンジャーさんにはけっこう感覚的に伝えちゃうことが多いんです。色だったり、温度だったり、匂いだったり、私が曲にどんなことを感じているかをお伝えして、そこからアレンジャーさんが色々と汲み取って下さって。

――では「思ってたとのぜんぜん違う」みたいなこともありましたか?

にしな:ありますね……。私が明確に伝えられればいいんですが、感覚的に伝えちゃっているので、やっぱりズレちゃうこともありますね。なので、アレンジが届いた時は楽しみではありますが、すごく緊張もします。でも最終的には何度も修正にお付き合いいただき、楽曲が完成していくので満足しています。

――アルバム10曲分となるとけっこうそのやり取りも中々大変だったんじゃないでしょうか?

にしな:意外とそうでもなかったですね。コロナ禍というのもあり時間はたっぷりあったので。「夜間飛行」は、ちょうど去年の緊急事態宣言の頃にリモートで打ち合わせをしてそこからって感じでしたね。

――ちなみにShinさんからのフィードバックで印象的なものはありましたか?

にしな:この楽曲は元々2番で終わる曲だったのですが、Shinさんの提案で、dメロ以降も追加して作りました。あのときShinさんが出して下さった意見のおかげで、曲の持つ奥行きが少し広がったのではないかなと思いますし、印象に残っています。それと、先日読んだ雑誌では、キレのある強いボーカルと、私の声を褒めて下さっていて、うれしかったです。またご一緒出来る様に成長していけたらと思っています。

5.ケダモノのフレンズ

――これは本当に良い曲ですね。ファンタジックな世界観も素敵ですし、サビがすごく印象的でずっと頭に残る曲だなと思いました。

にしな:この曲はプロデューサーの多保さんと一緒に作ってみよう、というところから始まった曲です。「これにメロディや曲をつけてみてよ」と、打ち込みのリズム(ドラムトラック)だけをいただいて。それを延々にリピートして聴いているとリズムがコード感を持っているように聴こえてきて、頭がおかしくなったんじゃないかな…?と思いながらメロディを付けた記憶があります(笑)。

――「Where the Wild Things Are」は絵本「かいじゅうたちのいるところ」の英題ですが、この絵本がモチーフになっているんですよね。

にしな:そうですね。その絵本の世界と、私が以前年末にフェスを観に行った時に見た世界をリンクさせながら作った曲です。ライブを後ろの方から見ていると、色んな人が好きなように動いていて。そのリズムに乗って自由に楽しんでいる姿が人間なんだけど、なんかケダモノみたいだな~と(笑)。あとは自分がフェスのステージに立った時にこういう光景が見られたらいいな、という願いも込めながら作りました。

――フェスでいうと5月のビバラ・ロックが初フェスですね。

にしな:そうですね。コロナで弾き語りでもライブもできてないのでライブ自体も久しぶりですし、バンドセットでのライブは初披露ということになりますね。

――楽しみですか?

にしな:いやぁ、大丈夫かな~?って感じですよね(笑)。でも一人でやるより、メンバーさんがいる方が楽しめるので「とにかく楽しもう!」とは思っています。

――この曲の直後にSpotifyのEarly Noise 2021が発表されて、聴いてくれる人もぐっと増えたんじゃないかと思います。その実感はあったりしますか?

にしな:これまで自分では書いてこなかった歌詞の世界観だったので、どう受け取られるか少し不安があったんです。でも、リリース後に友達から「この曲好き!」っていう連絡があって、ホッとしたと言うか、今までの自分にはなかった面が開けて良かったなと思いました。

6.ダーリン

――アコースティックで悲しいけど、とても優しい雰囲気のバラード曲となっています。どのようなきっかけで作った曲ですか?

にしな:何か人とのお別れで悲しいことがあったから作ったという訳ではなくて、過去の悲しかった記憶を思い出しながら作った曲です。窓を見ながらイメージしてかきました。部屋の中に窓があって、その下にベッドがあって、そこに二人が寝ていて….ってぼんやりと。

――MVの映像がまさにですね。この曲もですが「夜間飛行」や「centi」のMVも夜のシーンで、楽曲自体も夜をイメージするものが多いですよね。にしなさんにとって夜は大事な存在なのかなと思いました。

にしな:かもしれないですね。昔からそうなんですけど、日曜日の幸せな昼下がりみたいなのが苦手で…….。なんでか分からないんですけど、私は暗いほうが落ち着くみたいです(笑)。昔は、寝る前に暗い部屋で音楽を聴くのが好きでしたね。あとはローソクが揺れるのを見てたり(笑)。

――暗っ(笑)。にしなさんの曲は悲しい曲も多い印象なのですが、作っていて辛い気持ちなることはありますか?

にしな:うーん。逆に明るい曲がどうしても、かけなくてそっち方が辛いですね。「なんでかけないんだろう……..。」って悲しい気持ちになります(笑)。

――この曲を聴いた時に、映画「花束みたいな恋をした」のシーンが浮かんできました。内容がすごくリンクしている気がして。作品はご覧になられましたか?

にしな:見ました!全然気が付きませんでしたが、言われてみれば確かにそうかもしれませんね。絹ちゃん視点(笑)。

――最後のサビの「寝たふり続ける長い睫毛」のところでは声が裏返っていて、感情が溢れている感じが伝わってきました。これは偶然、録れたものでしょうか?

にしな:あんまり覚えていないのですが、自然と気持ちを込めて歌った結果がこうなりました。

――この曲では様々なアーティストのレコーディングやライブでサポートを務める伊藤大地さんがドラムで参加しています。この曲に限らず、アルバムには腕利きのミュージシャンの方々が参加しています。レコーディングの際にプロデューサーやミュージシャンの方々から学んだ事はありましたか?

にしな:皆さん、それぞれプロフェッショナルで、プレイに個性もあって、すごいなと思いました。
皆さんのレベルに負けないように、必死でした。少しでも吸収して、自分の力に出来たらと思っています。

7.centi

――この曲はiriやAwesome City Clubのアレンジを手掛けるESME MORIさんがアレンジを手掛けた曲ですね。R&Bやヒップホップテイストのグルーヴのあるトラックとなっています。

にしな:この曲はESMEさんから先にトラックをいただいて書いた曲なんです。いくつか候補があって、その中から選ばせていただきました。

――このトラックを選んだ理由はありますか?

にしな:トラックの世界観やコード感から一番メロディが浮かんで来そうな雰囲気があったからだと思います。そういえばこの曲もちょっとした事件がありました。ESMEさんの曲はサビ始まりのものが多いので、この曲もサビ始まりなのかな?と思っていたのですが、ESMEさんからそういう指示がなかったのでAメロ始まりで作っていました。でも、後で確認するとSMEさん的にはサビ始まりのトラックだったんです。そういう勘違いによって完成した曲なんです(笑)。

――サビ始まりで作っていたら全然違う曲になっていたと。普段はギターで作曲していると思うのですが、トラックから作るのとでは何か違いがありましたか?

にしな:トラックにコードを乗せてもらっている場合は、自分でギターでコードを鳴らしながら作る時とけっこう同じ感覚で作れていると思います。ただトラックの場合は元から世界観があるので、そういう意味ではゼロからギターで作るよりも作りやすいかもしれないです。

――ちなみに普段の作曲の時は歌詞とメロディは同時並行で作っているのでしょうか?

にしな:どちらの場合もありますが、一緒につくる時の方ができるスピードが早いと思います。あとから歌詞を考えることもありますが、その場合は時間がかかっちゃいますね。

――この曲の歌詞はモラトリアム期というか、子供と大人の間にある時期の心境歌った曲ですよね。

にしな:この曲を作ったのは大学3年生の終わりから大学4年生の最初頃にかけてで、ちょうど進路を選ばなきゃいけない時期でした。私は音楽の道に進もうと決めていたのですが、高校生の時に大学に進学を決めた時の気持ちとかが蘇ってきたんです。18歳や22歳の今このタイミングで何かを選ばなきゃいけないという不安とか、その時に選ばなかったものを失う怖さとか。そういう時に答えになれる曲になればいいなと思って。でも、どうしてもそういう詞がかけなくて。せめてそういう人に寄り添える曲になればいいなと思って書きました。かつ、自分自身にとっても聴いてくれた人にとっても、その先に希望があるんだよってことが言いたくて最後は「その先の朝焼け抱きしめ続けている」というちょっとだけ明るい感じにしてみました。

8.ヘビースモーク

――この曲はYouTubeでアップされている一番昔の曲ですね。

にしな:実は作った時のことをあんまり覚えてなくて……。 けっこうサックリ作れたような気がします。最初は恋愛の曲として書いたのですが、ライブでやっていくうちに自分自身の昔の記憶も入ってくるようになりました。今は違いますが、昔は両親も喫煙者で、私が幼い頃、食事が終わった後にお母さんがタバコを吸いにいっちゃうのがすごく悲しかったことを思い出すようになって。今は男女に限らず愛情とタバコの曲という印象ですね。

――何度も出てくる「貴方以上に体を蝕め」というのはどういう意図のフレーズですか?

にしな:色々な意味が含まれているんですが、すごく簡単に言うとですけど、あなたが吸っているタバコが体に悪いものだとするなら、あなたがタバコを吸わなくするか、貴方以上に煙を吸って「私が先に死んでやる」ということです。つまり「好きな人には自分より長生きしてほしい」っていう想いが詰まった言葉なんです。

――大きめのギターの音や、激しいドラムなど特にラストは聴き応えがありました。ストリングスも参加していてスケール感のあるアレンジですね。

にしな:この曲は完成に時間がかかりましたね。最初に何もお伝えせず、アレンジャーのトオミさんにお任せで作ってもらって、完全に新しい「ヘビースモーク」になっていて。それはそれで素敵だったのですが、ちょっと今より明るい感じだったので「なんかイメージと少し違うな」というところから、再度思い描いている世界観をお伝えして、何度もやりとりさせていただいて、今の完成形にたどり着きました。

――アレンジのやり取りをする中で特にこだわった部分はありますか?

にしな:こだわったともまたちょっと違うかもしれませんが、自分が持っているこの曲の世界観のイメージを、出来る限り具体的に伝えられるようにしました。
歪んだギターを入れたいとか、使いたい楽器のイメージなど、トオミさんの力を借りながら、自分が思い描いていた楽曲の世界を目指すことが出来ました。

――この曲はMVも感動的な作品となっています。MVができた時の感想や撮影時のエピソードなどがあれば教えて下さい。

にしな:この曲は結構時間をかけて撮ることが出来ました。何度も楽曲を聴いて、イメージを膨らませてくれた小林(光大)監督の撮りたい世界を一緒に目指しました。撮影後、編集が終わって、一緒に映像を確認する機会があったのですが、まるで一本の映画を見終えた様な感覚で、素晴らしい映像を作って下さったと感謝しています。とてもお気に入りのビデオのひとつとなりました。

9.透明な黒と鉄分のある赤

――この曲はアルバムの中で唯一の作詞・作曲が共作の楽曲となっています。ご一緒されたくじらさんはyamaの「春を告げる」を手がけられた方ですね。くじらさんとは以前から面識があったのでしょうか?

にしな:いえ、くじらくんとは今回が初めましてでした。なので、最初はお互いの様子を伺う感じでしたね。それぞれのこだわりをどこまで主張して、どこまで妥協をするか、みたいな。その線引きが難しかった気がします。

――具体的にはどのようなプロセスで曲ができ上がったのでしょうか?

にしな:まず、自分の中でこういう雰囲気の曲を作りたいというのがあったので、まずそれを伝えて、そこからお互いに案を出し合って作りました。そこにくじらくんがアレンジを提案してくれて、詰めていきました。アルバムの曲としては最後に完成した曲になります。

――作詞にもくじらさんが関わっているようですが、どのような形で参加されたのでしょうか?

にしな:Dメロの「氷が溶けてゆく」から「私だけは愛してあげたい」の部分がくじらくんの作詞ですね。

――この曲はアルバムの中でも最もテンポの速い曲ですが、勢いのある曲を作りたかった?

にしな:そうですね。強めの曲、強い姿勢の曲が作りたかったんです。私は普段は穏やかに見られることが多いんですが、音楽をやっている時は強い自分でいたいし、カッコいい姿でいたいと思っているので。それがより出せる曲があるといいなと思って作りました。

――この曲はタイトルが「透明な黒と鉄分のある赤」はインパクトのあるタイトルですね。タイトルや歌詞にはどういう意味が込められているのでしょうか?

にしな:これは私が曲を作る前に持っていたイメージなんです。くじらさんには「色としてはこういうイメージを持っている」というのを伝えて、それをそのままタイトルに付けました。歌詞も「強い姿勢」というのを意識していて、例えば、女性の生きにくさとかに対して真っ向から「NO」を突きつけない戦い方もあるんじゃないかと思うんです。踊らされて、時には傷つきながらも戦っていく、そういう強い人でありたいという想いがこの曲には込められています。

10.桃源郷

――この曲はこれまでとガラッと雰囲気が変わって、ピアノとストリングスを中心とした壮大なバラード曲となっています。ギターも使われていませんね。

にしな:はい、昔からこういう曲が好きで。この曲は誰かと作ってみたいというところからスタートしていて、最初にダーリンやランデブーをアレンジしてくださった、横山さんにコードだけのものをもらって、それにメロディをつける形で作っていきました。

――ボーカルの音域もかなり広いですよね。

にしな:そうですね。自分としては低い所がキツくて。高い所よりも低い所をどう出すかけっこう悩みましたね。

――普段、歌っている時に意識していることはありますか?

にしな:私はメロディを当てにいこうとすると逆に外れちゃうので、メロディよりも言葉をなぞるような気持ちで歌っています。

――「桃源郷」というタイトルを付けた理由は?

にしな:「桃源郷」というタイトルは最後に付けたんですけど、書き終えるまで何も浮かばなくて。すっごくなんとなく「桃源郷」っぽいなと(笑)。特に漢字の字面がこの曲には合うなって思って付けました。

――にしなさんにとっての桃源郷や理想の自分ってありますか?

にしな:「流れ星が流れた時に3回願いを唱えると願いが叶う」っていう、おまじないがあるじゃないですか?それに対して私は「絶対無理じゃん。叶うわけないじゃん。」って昔から思っていたんです。でも、もしかしたら回り回って叶う可能性だってあるかもしれないじゃないですか。そうやって何においても疑わない自分でいれた理想的だなって思います。例えば自分が「絶対で音楽でやっていける」っていうことを、全く疑わないでいられたらいいなって。私はすぐに不安定になっちゃうタイプなので、結果がどうであれ、その過程で強く信じることが大切だなって思うんです。

――この曲をアルバムの最後の曲にした理由はありますか?

にしな:この曲は作る段階でアルバムの最後の曲にするということが決まっていて、恐怖感のある感じで終わりたかったんです。秘密基地から始まって色んな物語があって、ちょっと怖くてどこに行くか分からない不安定な感じから、リピートしてまた秘密基地に戻ってくるっていう、アルバムを終わりのないループした世界観にできたらいいなって。

――音楽性の振れ幅が本当に広いアルバムですよね。

最初から最後まで通して飽きのこない、回りたくなるような作品にしたいという想いがありました。あと、自分自身が何者かまだ良く分かってないので、今は一つの色に染まらずに色んなことにチャレンジできたらと思っています。

Interviewed by Kohei Nojima