【インタビュー】plum

――お会いするのはツアー「Feeling」のNHKホール以来なんですが、あのライブ、とても楽しかったですね。

にしな:楽しかったです。なんか、昔作った曲をライブハウスでやってたときはもっとラフに……完成していなくても披露していたなって最近改めて思うようになって。未完成なままでも届けていいし、そのラフさが凝り固まった思考には今必要かな、みたいな。だからラフにいけたらいいなと思って挑んだツアーで、そういうものを届けられたと思うし、自分自身得るものがすごくあったなって思います。

――「凝り固まってるな」っていう感覚があったっていうこと?

にしな:そんなにたいそうなものではないんですけど、ひとつパッケージ化されてからじゃないと届けられないというのはいいことでもあるけど、やっぱり熱量に時差が生まれるじゃないですか。よさと悪さ、両方あるなと思ったので、早く出せたらお客さんと共有しながら成長させられるから、そういう瞬間も必要かなと思ってはいました。

――なるほど。見ていても、「BUGSbugs」以降のにしなは楽しそうですよね。

にしな:うん、楽しいです。

――ライブを観ていてもそう思いましたし、藤井風さんの「tiny desk concerts JAPAN」に参加したときも、いい雰囲気でしたね。

にしな:コーラスは苦手だったんで、人さまの素晴らしいステージでコーラスを務めることが本当にできるのかなって思っていたんですけど、風さんもすごく寄り添ってくださって、いろんなことを提案してくださって。本番はすごいシンプルにみんなで楽しく音楽をやったっていう。楽しかったなっていうのだけが残ってますね。7月にリリースされたくじらさんの「あれが恋だったのかな feat. にしな」もそうでしたけど、その人しか作れない曲であって、私が似たようなものを出そうとしても絶対に生み出せないものなので。そういう楽曲を歌わせてもらえると自分が知らない自分が出るし、自覚を持っていない魅力もきっと引き出してくれるものだと思うので、いっぱい刺激をもらうし、純粋に歌ってて楽しいなって思います。

――「コーラスで参加してほしい」とか「自分の曲で歌ってほしい」というオファーがくるというのは、要するにシンガーとしてのにしなが求められているというか好かれているということなんですけど、歌い手としての自分については今どんなふうに思っているんですか?

にしな:もともと音楽始めたのも、歌うことに憧れて、歌うことが好きで始めたので。楽曲作るのも、人の曲をカバーする延長線上に自分の形を作ってきた感じなんです。そうやって「歌ってください」って言ってもらうのはカバーとは違うけど、感覚としては似てて。すごく音楽好きだし、この曲を歌うのが純粋に楽しいっていう。それを求めてくれるなら、私はとっても嬉しい、でしかない。楽しいなあって思います。

――メジャーデビューから3年くらい経ちますけど、シンガーとしての強みみたいなところは掴んできた?

にしな:模索はしていますけど……最初の頃のほうがより「どう聴こえるか」みたいなところを意識していた気がするんです。だけど途中で分かんなくなって、最近は、客観的にどう聴こえるかももちろん考えるんですけど、いかに違和感なく歌えるか、みたいなことのほうに重きを置いてます。

――違和感っていうのは、歌っている自分にとってということ?

にしな:そうですね。聴こえかたで歌いづらいっていうのがやっぱりあって。時間に限りがある中でベストは尽くすけど「もっとできたかも」っていう中で終わっちゃうこともあって。それをいかに取り外せるかというか、どれくらいナチュラルに、何もつけてない感覚で歌えるかみたいなのを求め続けてる気がします。

――そういう意味で「plum」はどうでした?

にしな:「plum」はマイクを何本か試させてもらったりとかして。伝わりづらいかもしれないんですけど、自分の耳の中の感覚と外で聴こえるよさって違ったりするんですよ。そこを今回はアレンジに入っていただいたYaffleさんにレコーディングにも立ち会っていただいて、自分の歌いやすさと外の聴き心地のよさ、楽曲に合う聴き心地のよさのベストなバランスを目指せました。ここ1年ぐらい、同じボーカルレコーディングエンジニアさんと一緒にやらせていただいているというのもあって、より自分の中でナチュラルに、無理せず歌えた気がしています。

――その「無理せず」というか、より肌感に近いところで表現をしたいというのは、先ほどの「ラフに届けたい」という感覚とも繋がっている感じがしますね。

にしな:そうかもしれない。なんか、邪念を取るような感じというか(笑)。ここ聴きづらい、ここ鳴りづらいみたいな……すごく抽象的で申し訳ないんですけど、そういう邪念がどんどんなくなっていく感じ。難しく考えてた部分がシンプルになりましたし、そうなると音楽にまったく関係ない部分でもそうなってくるというか。私生活もどんどんシンプルになるというか。複雑にならないようになってきている気がします。

――この曲はいつ頃書いたんですか?

にしな:2年前くらいからあったかもしれない。わりとさらっと書いた気がします。ずっとは悩まなかった。

――その感じはしますよね。

にしな:本当ですか?

――うん。さらっとというか、あまりこねくり回して作った感じはしない。ストレートに書いたんだろうなっていう。

にしな:うん、そうですね。確か、「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」ので使っている3コードを何となくずっと回しながら、乗れる曲を作りたいっていうところからスタートして。それでサビから作っていった気がします。

――先ほども話に出たYaffleさんのアレンジはどうでした?

にしな:自分が想像するYaffleさんのかっこよさみたいなのをすごく楽曲にも反映してもらえて。「かっこいいな」って感じでした。ロジカルな部分はしっかりあるけれど、その上で大切なところのあやふやさとか柔軟さとか、ハマりすぎないところもしっかり持った、完璧な人だなっていう印象ですね。

――確かにこの曲もいきなりノイジーなギターが入ってきたり、声ネタみたいなのが入ってきたり、ちょっとした違和感みたいなのが出ていますもんね。歪さがちゃんと残っているというか。歌詞はどんなことを思って書いたんですか?

にしな:なんか、「ピーチ」ってスラングで「素敵な人」っていう意味があるらしいんです。

――ああ、そうなんですか。

にしな:それと、私、小さい頃から「プラムっておいしいけど酸っぱいよな」ってずっと思ってて。「なんでこれはこんなに酸っぱいんだろう、桃はあんなに甘いのに」みたいなのがずっとあったんです。で、「ピーチ」は「素敵な人」だけど、でも甘いだけの人なんていないよね、みたいな。自分自身もそうだし人もそうだけど、愛されるとしたら素敵な部分だけじゃなくて、素敵じゃない部分も愛されたいし、そこが可愛げだと思うんです。そういうふうに歌えてるかどうかは分からないんですけど、そういう気持ちを根底に持った上で、ちょっとひねくれちゃった感じで書きました。

――頭の2行、〈甘いだけのピーチに成り下がれない/それじゃあなんだか怠惰でつまらない〉っていうのがまさににしな的だなと思うんです。ここには「ピーチになりたいけどなれない」みたいな気持ちもあるんですか?

にしな:あるのかもしれない。でも、なれない気持ちもあるけど、全然なりたくないなっていう気持ちもあるっていう。正反対だけど、それが共存している感覚はある気がします。

――うん。その共存している感覚をそのまま書いている感じがしますよね。「シュガースポット」以降ずっとそういう感じがするんですけど、「こういうお話を作ろう」とか「こういう設定で」とかの手続きなしで心の赴くままに書いている感じがする。だから1曲の中で矛盾があったりもするんだけど、「それもまあいいや」みたいな。

にしな:ああ、「いいや」はすごくあるかもしれない。きっと……音楽の先輩を見てても、たくさん曲を作っていくじゃないですか。私もこの道が続く限りはずっと作るし。その中ですべてを正しく、整合性が取れた状態で出さなくても、いくらでもこの先作っていけるし、みたいな気持ち。ある意味で投げやりなのかもしれないですけど、ある意味ではラフに、そこは曖昧でも出すことに意味があるんじゃないかなって思えるようになった気がします。

――昔は違った?

にしな:昔のほうがもっと……それもよさだと思うんですけど、どこが足りないのか、どこが無駄なのか、どこが矛盾しているのかっていうのはすごく考えてた気がする。

――この曲でも〈熟れすぎてもダメね〉と言いつつ〈腐る寸前が 1 番の甘美〉とも歌っていて。どっちなんだ?とも思うけど、でもそもそも人の気持ちだってそういう矛盾だらけだしな、とも思うし。

にしな:そう。そういう大雑把さというのが出てる。

――それがあるからかもしれないけど、この曲ってじつはシリアスなことを歌っていたりもするんだけど、すごく明るい曲になりましたよね。

にしな:うん。

――「みんなはピーチが好きなんだろうけど、私はピーチになれない」、つまりなかなか相手が望む自分にはなれないよねっていうことって、ある一面では悲劇だし、にしなはこれまでそれをどちらかといえば悲劇として書いてきた気がするんです。でもこの曲は悲劇ではないと思う。その違いってなんだと思います?

にしな:Yaffleさんにアレンジしていただくときもお願いしたんです。書いていることはちょっとネガティブに聞こえる可能性があるけど、それよりも楽曲として乗れる、楽しめる、それを重要視したいって。何を前に出したいかの順序はお伝えして一緒に作らせてもらったので、それもあるかもしれないです。「BUGSbugs」も投げやりに聞こえる可能性があるけど、それよりも一緒に踊れるかどうか、楽しめるかどうかを重要視して作っていたんですけど、音楽は言語がわからなくても楽しめるものじゃないですか。音楽のそういう部分を最近はとても重要視してるような気がします。やっぱりフェスに出ても自分のライブをしても、みんなが日々を忘れて一緒に楽しめるっていう瞬間はすごく大切だなと思うんです。もちろんみんなが私に何を求めるかは難しいですし、「ワンルーム」とか「ダーリン」みたいな曲をすごく好きだって言ってくれる方もたくさんいるので、そういう曲も大切にしたいとは思うんですけど、今は楽しむことに重きを置きながらやっています。

――それって、「楽しむ」っていうのと同時に「恐れない」っていうことでもあるような気がするんすよ。さっきの歌詞の話じゃないけど、「どう思われてもいいや」っていう強い気持ちが根底にあるんだと思う。

にしな:その素質はずっとある気がするんです。でもそれがより出てくるようになったのかな。

――この「plum」って、曲調はもちろん違うけど、手触りとしてはより弾き語りっぽい感じというか、『odds and ends』の頃に通じる部分があるような気がしたんですよ。それが不思議だなって。

にしな:ああ、私勝手に、Yaffleさんって引き算がすごく上手で、素敵に作ってくださる方だなと思っていて。弾き語りっていらないものを削ぎ落としていくものだと思うんですけど、その自分とシンクロしてアレンジしてもらえたのかなって。いっぱい音も乗せてもらってますけど、抜け感もすごくしっかりあって、弾き語りのよさみたいなのが、もしかしたら出てるのかもしれない。もちろんやり取りの中でいろいろ変えてもらった部分はあったんですけど、「ここはガッツリ抜いておきたいんだよね」みたいな感覚はずれることなく、最初から一致してました。

――にしなの本来持っていた感覚とも近いところで作れた感じもある?

にしな:そうですね。自分としてもすごく気に入っている曲ですし、小さい頃からこういう、抜けのあるR&Bっぽい曲って好きだったので。ずっと好きだったけど、今までの曲にそういうものは多くなかったと思うんです。自分の中に流れているものとして、J-POPももちろんあるんですけど、こういうもののほうがどちらかというと強くて。それがここに来てできたことがすごく嬉しかったですし、ここからもっともっとチャレンジしていきたい方向性だなっていうのはすごく感じています。

――なるほど。聴き手としては新鮮だけど、にしなにとってはむしろ自分らしいものでもある。

にしな:そう、自分としてはそうですね。

――この曲、ライブでやったらまた新しいムードを作ってくれそうですよね。

にしな:どうなるんでしょうね? もちろん自分がやるライブでもそうなんですけど、たとえばDJが流す1曲として流れたら嬉しいなとも思うんです。知らないところで誰かがかけてくれたら楽しいなみたいな気持ちでも作ったので。他のライブでも流れたらいいなって思っています。

――そういう感覚も前は持っていなかったものですよね。

にしな:そうですね。でも、だいたいどの曲も弾き語りで作るじゃないですか。だから根底は変わらない。「plum」も弾き語りでやったら全然こじんまりとして聞こえると思うんですよ。だから始まりは変わらないけど、じゃあ、どう完成に持ってこうって考えたときにサイズ感を大きく想像できるようになったのかもしれないです。でも一方で、この前、フェスで最後に「ワンルーム」をやったんですけど、それを観てくれた子とか、SNSでメッセージを送ってくれる子とかがいて。そういう自分をすごく好きになってくれて、求めてくれている人もたくさんいるんだなというのは強く感じているので、部分もすごくあるな、と強く感じているので、それを作り続けられる感覚もとても大切だなって実感しています。

――ライブでみんなで盛り上がるにしなも、そうやって心に響くようなにしなも、どっちも大事にしながら。

にしな:うん。自分が出したものに対しては「それが好きじゃなかったらそれはそれでいいかな」って思うタイプだし、人の気持ちに応えるためにやってるわけではないっていうのは絶対にあるんですけど、でも「ダーリン」みたいな曲は自分自身も好きだし、客観的に音楽を見ている人間として、たとえば小さな部屋でギター1本で歌っている人がYouTubeに上げましたっていう尖り方ってすごくかっこいいと思うんです。だから欲張りですけど、どっちも手にしていたいっていう気持ちがあるっていう。そういう幅の広さは失いたくないっていう感覚ですね。

――「plum」にはその両方の感覚がちゃんと入っている気がしますしね。

にしな:うん。これはすごく昔から自分の中に流れる音楽性としてすごいフィットしてるし、こういう楽曲はすごい好き、こういう方向をやりたいみたいな気持ちはあるし、でも弾き語りのよさも好きだし。今は何かひとつ指標が見つかってもいいのかなっていう気持ちもどこかにありますけど、今はそれを探すタイミングではないというか。それはそのうち見つかったらいいなって。

――わかりました。秋のツアーも楽しみにしています。今度はZeppツアーですね。

にしな:今はライブハウスでやるのが好きなんですよね。歌を歌うという意味ではホールも気持ちいいですけど、お客さんと楽しむっていう意味ではライブハウスのほうが楽しみやすいのかなって思うので。みんなで楽しめたらいいなって思っています。

Interviewed by Tomohiro Ogawa