【インタビュー】つくし
――「わをん」に続いて、とても大きな歌が生まれたなと思いました。自分ではどんな曲になったと思いますか?
にしな:「ちゃんと、漠然と大きいものに向かい合ったなっていうのは、改めて振り返っても思います。向き合った末に前向きになれるというか、優しい気持ちになれる曲にできたことが、自分が成長したなって感じる部分で。そういうふうに曲が書けたことが嬉しかったです。」
――この「つくし」は『リラの花咲くけものみち』というドラマの主題歌として書き下ろされたものですけど、作品に触れてどんなことを感じたんですか?
にしな:原作の小説を読んで書いていったんですけど、それとは別に、自分が祖母とかを思って書きかけていた曲があったんですよ。その曲はすごく大切に育てていたんですけど、『リラの花咲くけものみち』にもすごく通ずる部分があるなって思って。それで、もともとその曲を作っていくときにあったアイデアを入れ込んでみたら、広がりの中にすごく具体性が出てきたんです。そこからどんどん広げていきました。
――ドラマの制作チームとはどんな話をしていたんですか?
にしな:ドラマ側の方からは、獣医師を目指すための大学で、みんなまだ子どもだけど、精一杯命と向き合いながら成長していくんだよっていう話をしていただいて。迷ったりもするけど、それでも進んでいく人の背中を押せる曲を書いてほしい、と言っていただきました。ただ背中を押すんじゃなくて、私自身も一緒に前に進んでいくための応援歌というか、無理やりじゃなく、自然と歩み続けられる曲になったらいいなと思いましたね。ちょっとうまく言えてないですけど(笑)。
――そこにさっきの話にあった、もともと書いていたおばあちゃんへの思いを込めた歌がうまく合致した?
にしな:そうですね。自分の背中を押してくれる存在――たとえばいなくなった人とか動物とかもそうですけど、言葉を発するとか意思疎通ができるものがすべてじゃないなって思うし、そういう見えないものの力を感じながら進んでいくっていうこととか、記憶のなかにある優しさを糧に成長していくとか。そういうことを重ねていきました。
――北海道の、ドラマの舞台になった場所にも実際に行ったそうですね。
にしな:はい。舞台の大学に行きました。まっすぐ伸びる一本道とかがあって。動物とも触れ合いたいなって思ったんですけど、ちょうど校舎の建て替えをしていた時期で、学生さんもいなくて。だから何も見れなかったといえば見れなかったんですけど、こういう場所でみんな命と向き合ってお互い成長したり失敗したりを繰り返してるんだなっていうのはなんとなく感じて。あとは自然の壮大さとか。そういう感覚を持ち帰ってきて楽曲作りを進めていきました。
――獣医師目指す人って、きっと最初はシンプルに「動物かわいい」とかの気持ちから始まっていくんだと思うんです。
にしな:そうですね。
――でもきっと現実はとても過酷なんだろうなって。
にしな:原作を読んだときにいちばん印象に残っているのが、お母さん馬が出産しますっていうときに、そのお母さんに命の危機が迫って、母馬を生かすのか、子馬を生かすのかっていうのを学生たちが選ばなきゃいけないっていうシーンです。どちらが正解か問い質し始めるとすごく難しいし、選んだ後もきっと「あれでよかったのかな」って悩んだりするんだろうなっていうのをすごく思って。自分もそこに対して肯定することも「違うよね」って言うこともできないし、たぶん決断をした人もずっと迷い続けると思うんですけど、自分が立ち止まっても進み続けていく時間のなかで、選び続けるということが生き続けるということなのかなって思ったので、そういう背中の押し方ができたらなとは思いました。
――そこは「わをん」で歌っていた愛についての考え方とも通じる部分がある気がします。いろいろあるけど続いていくんだよということとか、そのなかで愛を持っていこうということと、この曲で歌われる「命を燃やしていこうよ」ということって、同じだと思うんです。
にしな:そうですね。自分の価値観というか、人生の芯というところでは共通する部分があると思います。
――そもそも、この曲を書く前から「命」とか「生きること」について考えてはいたんですか?
にしな:すごい考えたりする時期もありましたけど、今のタームとしてはそこを深く掘り下げすぎてもドツボにはまるのかなっていう感じですね。それよりも目の前にいる人や物を愛することとか楽しいことを想像して辛いことも乗り越えていくようにするとか。深すぎることはあんまり考えないかもしれない。
――確かに、生きる意味みたいなことって、考えすぎると究極「意味ないじゃん」っていう答えに辿り着いちゃったりするんだけど。でも生き死にって、表現をしていく上では逃れられないテーマでもあるじゃないですか。
にしな:そうですね。
――この曲はそこに対してにしなが正面から取り組めた曲なんじゃないかなと思うんですよ。
にしな:確かに自分が生きる意味とかは考えないんですけど、死生観とか、いつか死ぬということは意識する気がします。生きるなかでも、書く上でも。
――ああ、「つくし」も最後は〈いのちはただ美し〉というフレーズで終わるんだけど、そのための出発点は〈やがて枯れる等し運命〉、つまり「いつか死ぬよ」というところなんですよね。たぶん にしな という人はそこからじゃないと命について歌えなかったんだろうなって。
にしな:そう。それはセットな感じは自分でもします。それも含めてしっかりと書けた気がする。「いつか終わる」っていう感覚は年々、本当に強まっているんですよ。順当にいけば親とか祖父母とか身の回りの方は私より先に亡くなっていくし、やがて自分にもそういうときが来る。それは命以外もそうだと思うんです。音楽もやっていて、じゃあいつまで自分の曲をみんなが興味を持って聴いてくれるかっていうのもわからないし、上がれば下がるっていうことももちろんあるじゃないですか。だからこそ後悔しないようにやりたいっていうのは思いますし、自分の年齢とかキャリアが少しずつ上がっていく中で、下の世代の子も増えてきて、より上限を意識することが増えましたね。
――それがエネルギーになっているみたいなところもある?
にしな:そうですね。それを踏まえて、今をどうしていきたいのかとか、数年後どうしたいのかっていうのは、より考えるようになっている気がしますね。
――それがどんどんストレートに歌詞に表れるようになってきている感じがします。
にしな:そうですね。昔みたいに……っていうとちょっとあれですけど、もっと情熱的に、「わー!」っていう感情で書きたいなって思う瞬間も、世界も狭めて書きたいなって思う瞬間もありますし、それにチャレンジするときもありますけど、変わった部分もすごくあるなっていうのは、よくも悪くも感じます。私は表面だけで音楽やってるわけじゃないし、お金がもらえるからやってるわけでもない。やっぱり音楽は自分の中にあるドロドロだったりサラサラだったりを届けるツールだったので、カジュアルには話せない部分ももっと書きたいなっていう。
――この曲でいうと、〈貴方〉という人と対比するように〈小さな燕〉が出てくるじゃないですか。自分にとってすぐ近くの世界に感じられる存在と、広い世界のなかを飛んでいく存在。この視野がパーンって広がる感じはすごく鮮やかだなと思いました。
にしな:嬉しいです。その〈貴方〉が出てくる〈泣いた顔が幼いのは/貴方が誰より強い証と〉っていうところは、もともと違うところで書きたいこととしてずっとあったものなんです。
――ああ、それが最初に言っていた別の曲ということ? ここのパートでぐんとフォーカスが寄って、記憶の中に潜っていくみたいな感じがありますよね。
にしな:そうですね。それはおばあちゃんのこととか、昔読んだ小説のこととか、自分のことも重ねて書いてた曲で。あの、私、昔から「泣いたら負けです」みたいなのに対してなんで?って思ってるところがあって。大人になると泣かなくなるし、それはいいことでもあるけど、「泣けなくなる」っていうのは決して強いわけではないよなっていう。「泣ける強さ」っていうのもあるよなと思いながら書いていましたね。
――しかもそれが、ドラマのストーリーや主人公の背景ともリンクしてますよね。『リラの花咲くけものみち』の主人公・聡里はひきこもりだった時期もあったりして、きっと感情を抑え込んできた人なんだと思うし。
にしな:うん。やっぱり外に出る最初の一歩が怖いとか重いとかは私自身もそうだし、きっとみんなあるんじゃないかなって思うし。そこには共感しますね。そういう自分が嫌だとか文句を言いながらも、なんとか進んできているっていうのは重なる部分が多いのかなって思います。
――聡里だけでなく誰しも、生きていればしんどいこともたくさんありますけど、にしなさんがそれでも進んでこれたいちばんの原動力ってなんだったんだと思います?
にしな:ああ、死なない理由みたいな。
――まあ、究極的にはそう。
にしな:死なない理由はまだ楽しいから。楽しいこともやっぱりありますし、大切な人もいるし、知りたいことも多いから。それでも嫌になることはもちろんあるんですけど、そういうときは何もがんばらない。無理に前は向かないけど、でも何もがんばらなくていいんだったら、別に死ぬほどでもないかなって思えるんです。どうせいつか死ぬし、わざわざ死に急がなくてもって。そうなってると、だんだんやる気が出て、楽しいことも生まれてくる。そういう感じですかね。ネガティブなのか、ポジティブなのかわかんないですけど(笑)。
――その人生観はこの曲にもちゃんと出ていますよね。
にしな:もっと若い頃……若い頃って言ったらちょっとあれですけど(笑)、ミュージシャンって若くして亡くなる方も多いじゃないですか。それに憧れる時期みたいなのもやっぱりあったんです。でもそこは通過して、逆に生きてる方がかっこいいなって思うようになりました。
――いろいろ不満や苦しさはあるけど、それでも生きてるほうがいいじゃんっていう。
にしな:そう、まだいろんなことを知れそうだし。
――この曲の〈いのちはただ美し〉の〈ただ〉がそういうことな気がするんです。命が美しいというのはそれぐらい当たり前のことなんだよっていう。
にしな:うん、そうですね。
――サウンドの面では、横山裕章さんがアレンジで参加しています。彼のピアノ、いいですね。
にしな:素敵ですよね。他のレコーディングの何かの合間に、「伴奏がほしいです」みたいな感じで一緒に作ったんです。
――まさに「伴奏」って感じのピアノだし、ストリングスがそこに色をつけていくっていう。すごくシンプルな音ですよね。
にしな:歌がすごく引き立つサウンドになってるんじゃないかなと思います。言葉とか向き合ってるテーマは壮大だけど、生活のなかに寄り添える曲であってほしかったので、そこのニュアンスだったりとか、どれくらい硬くてどれくらい柔らかいのかとか、どれくらい明るくてどれくらい寂しいのかみたいなバランス感を微調整してもらいつつ作り上げていきました。
――「つくし」っていうタイトルにしたのはどうしてなんですか?
にしな:最初はすごく悩んでいろいろ候補を上げていたんですけど、自分の中で最後の〈いのちはただ美し〉という響きのなかにある「つくし」がすごく残っていて。この曲では「いつか花が咲く」ということを言ってるけど、つくしは花が咲く植物ではないから、そこの矛盾をどう捉えるべきなんだろうって悩んだんですけど、物理的に花が咲いてないとしても自分たちの想像力で咲かせることもできるし、雪の下で凍えながらしっかり芽吹いていくつくしっていうのはこの楽曲にすごくぴったりだなと思って、タイトルに持っていきました。
――これが2025年の第一弾ですけど、今はどんなモードで曲作りをしているんですか?
にしな:ちょっと重い曲が続いたんで、いったんそこから離れたいっていう気持ちはあるんですけど、どう転んでいくかはわからないって感じですね。
――4月の国際フォーラムでのワンマンライブも楽しみです。
にしな:そうですね。Zeppツアーの後なので、やっぱり距離感が違うじゃないですか。そこをどうやっていこうかなって思いつつ、1日だけのお楽しみっていう感じも結構スペシャルな気がするので、それをどう表現しようかなっていうのは自分自身も楽しみですね。
――わかりました。今年はどんな年にしたいですか?
にしな:どんな年だろう。それこそさっきの話にもあったんですけど、デビューから結構時間も経って、年齢とか関係ないけど、自分より後から出てきた子たちも増えてきて。最近は今一度自分っていうものをすごく考えるようになってるんです。自分をちゃんと確立していきたいっていうのはすごく無理なく思うようになりました。自分がどういうものなんだって認識した上で、違う角度からもどんどんチャレンジしたいなってすごく思っています。あとは国内国外、いっぱい遊びに行きたいですね。私、前はめんどくさくてあんまり動かないタイプだったんです。今もそうではあるんですけど、擦り切れるぐらいちゃんと遊んで、人とも向き合って。たまに閉じこもって、それと同じぐらい曲とも向き合いたいなって思います。
Interviewed by Tomoyuki Ogawa