【インタビュー】weekly
――まずは先日行われた東京国際フォーラムでのワンマンライブ「MUSICK」の話をしたいと思います。すばらしいライブだったと思いますけど、どうでしたか?
にしな:シンプルにすごく楽しかったです。あのライブは、いつも支えてもらってるメンバーと一緒に、クリックとかそういうものにも支配されないで曲を演奏したいな、本当にお互いの音を聴きながらやることもしたいなと思って。今までいろいろな演出に凝ったりもしてきたんですけど、もう一度音楽というものにフォーカスして、各プレイヤーのかっこいいところを感じられる構成のもとやってみました。やっぱりみんなかっこいいなって感じましたし、それを観てもらえてすごく嬉しかったです。
――そもそもああいうコンセプトでやりたいと思ったのには何か理由があったんですか?
にしな:アコースティックコーナーをやりたい、みたいなところも大きかったですし、ワンマンライブは毎回自分の中でテーマを持って、みんなに新鮮さを届けられたらいいなと思いながらやっているんです。それで映像演出とともにやってみたりとかいろいろやってきたんですけど、その中でもう1回シンプルに「音楽」をやりたいっていう気持ちになったんですよね。
――あのアコースティックコーナー、よかったですよね。
にしな:楽しかったです。
――「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」はオリジナルとはまったく違う雰囲気だったし、「It’s a piece of cake」はあの曲が生まれた原風景を感じさせるようなパフォーマンスだったし。
にしな:うん、「It’s a piece of cake」は公園にみんなでいるみたいな気持ちになりました。
――最後の弾き語りもよかった。
にしな:そうですね。一時期、弾き語りやるのって大変だなって思っていた時期もあったけど、ずっとやってきたことだったから。あの日は特にすごくやりやすかったです。「やりやすい」っていうとちょっと変なんですけど、なんかしっくりきた。何にも縛られず、話すように歌えるみたいな。自然で楽しい時間でした。
――MCで「ライブの前に心が折れて歌えなくなった」ということもいっていましたけど、あれはどういうことだったんですか?
にしな:リハーサルのときにピッチが取れなくなっちゃって、心が折れてしまったんです。疑心暗鬼になっちゃって、自分のことも信じられなくなって、合ってるのか合ってないのかもわからない、みたいな。でもイヤモニを外して、みんなでアコースティックをやると戻るんですよ。ちゃんとピッチが取れるようになる。メンタルとかイヤモニの問題とかいろいろあったんだと思うんですけど、外せば歌えるって確信できて、それで「ちゃんと歌えるよ」って思えた。私、自分の生きてきた統計的に、崩れた後には強く立ち上がるタイプなんです(笑)。だからいい日になるっていう謎の自信はありました。ステージに立ったら楽しかったですね。
――すごく楽しそうでしたよね。あと、最後の弾き語りの時に感極まって泣いてた説があるんですけど……。
にしな:あれは気のせいです(笑)。
――でも気持ち的には高ぶったわけでしょ?
にしな:そうですね。安堵もあったし……はっきり気持ちを覚えてるわけじゃないですけど、すごくハッピーな、幸せの中にある涙だった……いや、涙ではなく、感情だったなって(笑)。
――にしなもハッピーだったし、お客さんもハッピーだったし、バンドメンバーもきっとハッピーだったと思うし、そういう意味でもいいライブでした。あの感じをツアーに持っていけるといいですね。
にしな:そうですね。持っていきたいですね。
――で、そのライブのなかで初披露されたのが「weekly」という新曲でした。「わをん」「つくし」と、どちらかといえば大きな曲が続いてきたところから、また少しモードを変えたというか、歌えて踊れるポップな曲になって。
にしな:この曲は結構前から作っていたんです。「マンデー、チューズデー……」っていう断片はあったんですよ。ジョングクさんのあの曲(「SEVEN」)より前に作ってたんです。「わ、持ってかれた!」って思った記憶があります(笑)。
――ははは!
にしな:それくらい前から冒頭の部分とかはあって、そこから時間をかけて煮詰めていきました。
――その曜日を数えるっていうのは何がきっかけで生まれたんですか?
にしな:なんて曲だったかは忘れたんですけど、昔好きだった曲があって。それも数える系なんです。そういうのがあってもいいかなと思って書き始めました。なんかすごく遊びながら作ってる気持ちだった気がしますね。パズルしてるみたいな感じ。
――確かに遊んでいる感じは出ていますよね。リズム感がすごく楽しいし、言葉を伝えるというのももちろんあるけど、歌詞の意味みたいなものとは違うところでみんなで楽しもうよっていう曲になっている感じがします。
にしな:確かに、「みんなで歌えたらいいな」っていう気持ちはありましたね。内容としてもちょっと「めんどくさいな」みたいな、ネガティブなことを言っているんですけど、それすら楽しもうよってかわいい感じになったらいいなっていうのは思っていました。アレンジャーさんともそういう話をして、それでこういうアッパーな感じになったんですよね。冒頭とかのリズムの抜け感みたいなのは、「こういう感じなんですよね」って言って、結構修正を重ねてもらった記憶があります。
――曜日を数えていくっていうある意味でワンアイディアから始まって、最終的にこういう歌詞になったというのは、そこににしなとしての気持ちや普段感じていることが反映されている感じはしますか?
にしな:します。それこそ、無理やり結びつけてるかもしれないですけど、今回の「MUSICK」でもそうで、ダメだって思ったときにめっちゃよくなる、みたいな。で、今回めっちゃよくなっても、次回はめっちゃ悪いかもしれないし、3歩進んで2歩下がるじゃないですけど、ずっとそういうサイクルじゃないですか。ずっと平坦だとそれはそれでつまんないし、最悪の時もこれから楽しくなるための助走であって、最終的には全部を楽しめたらいいなっていう気持ちがすごくあるんで。そう思えたらいいなって自分自身への期待も込めて、曲はそういう方向に向かったのかなって。
――うん、この曲に描かれている日常は――これは多くの人が共感するところだと思うんですけど、決して楽しいだけじゃないじゃないですか。〈チューイングガムの味も/無くなる今日この頃〉なわけで。なのに「笑っていこうぜ」みたいなところに着地していくっていう。
にしな:うん。書いている時、自分の学生の頃の気持ちが思い出していた気がするんですよね。
――その時からそういうメンタルで生きてたってこと?
にしな:その時はそんなふうに思えてはいなかったかもしれないですけど、月曜日が来て「めんどくさい!」って思っていても、土曜日になったら「イェーイ!」みたいな(笑)。そのサイクルの中でずっとクルクルしていたっていう感じはします。
――ああ、でもその「いいこともあれば悪いこともあるさ」みたいな、ある種の気楽さみたいな人生観は、この曲だけじゃなく最近の曲にはすごく出ていますよね。前からそうだけど、前は曲ごとにもう少し色を決めてパッケージしようとしていた気がする。
にしな:確かにごちゃごちゃかもしれないです。そう言われると確かにって思う節はありますね。
――なんか、素直というか、カッコつけなくなったんじゃない?
にしな:ああ、完璧じゃなくてもいいんじゃないか、みたいな気持ちはありますね。それが「ごちゃ混ぜでもいいんじゃないかな」ってところにつながってるのかもしれない。
――そうそう。「MUSICK」っていうライブもまさにそういうものだったと思うんです。派手な演出はなくてもいいし、ストーリーがなくてもいいし、バンドでギター弾くのも、アコースティックも弾き語りもやるし、客席にキャンディも投げますよ、みたいな。「だって音楽だもん」みたいな気楽さというか。
にしな:うん。みんなで一緒に歌えるような曲になったらいいなって。
――歌いたくなるし、踊りたくなるし。あ、ライブで踊っちゃえば?
にしな:踊れないんですよね(笑)。体育でもダンスだけ評価悪かった。ダメなんですよ、照れが拭えない。
――でも、うまいとか下手とか、得意とか不得意とかじゃなく、勝手に体が動いちゃうよねっていうサウンドとリズムになっている感じはしますけどね。ライブで歌っている時もそんな感じはしませんでした?
にしな:そうですね。なんかすごい「パカーッ」みたいな。心の中パカーッて感じですね。
――今回の歌は本当にそんな感じですよね。心が躍動している感じ。
にしな:今回採用したテイク、自分で録ってるんですけど……これ最近のあるあるなんですけど、ちゃんと煮詰めて本番を録るんですよ。でも「違う」って思って、結局デモの歌に戻るっていう。最終的に使っているのはデモの歌なんです。
――それは何が違った?
にしな:やっぱり気の抜け方。ちゃんと録ったほうは「こう歌おう」って狙っていく感じがしちゃったんです。抜こう抜こうとしても、もう体に入っちゃってるから。それはそれでよさがあったんですけど、でも、楽曲としてそういう歌ではなかったっていう。デモの歌がいちばんしっくりくるなと思って、それを使ってもらいました。
――そういうことって結構あるんですか?
にしな:ずっと自分で録っていて、最近はそういうことがすごい多いです。私、テイクをめっちゃ重ねるタイプなんですよ。ゲシュタルト崩壊するぐらい歌って、その時はそれがいいって思えるんですけど、改めて聴くと何か違うみたいになったりとかして。抜けた感じがいいなって思うことが最近は多いですね。
――にしなの音楽がどんどんそういうものになってきているということなんでしょうね。
にしな:なんかかっちりされるとやりづらいっていうのは確かにある。
――そこににしなっていう人にとって音楽が何なのかっていうのを解き明かすヒントが眠ってるような感じがする。一般的にクオリティが高いものは別にあるかもしれないけど、でもそっちじゃないんだよっていう。
にしな:うん。ライブでやったアコースティックコーナーみたいに、音楽をこの耳で聴いて、みんなの顔を見て、感じて音を重ねていくっていうのがいいなって思います。しかもそれをお客さんもみんな受け止めてくれるなってすごく思います。バンドメンバーもお客さんも、みんなのことを信頼してワーッて出てくる感じ。
――うん。そのなかにいて音楽をやっているのが楽しいんだっていう。この「weekly」だって、どう考えても1人で歌うべき歌じゃないと思うんです。
にしな:そうですね。
――1人じゃ絶対鳴らせない音で、1人じゃ絶対歌えない歌で、お互いのしがない日常を励まし合うみたいな曲なんですよね。
にしな:だから、自分以外の声も入れてるんですけど、好きな人たちに歌ってほしいなと思って、友達とかお仕事で一緒にやってる人とかに「やってくれないですか?」って声をかけて。そしたらみんな「いいよ」って言って歌ってくれた。だからこの音源では自分の好きな人たちの声が鳴ってるし、ライブでもお客さんっていう自分の好きな人たちの声と重ねていけるし。自分にとって音楽をすごく楽しくしてくれる
――もともと楽しいんですけど、みんなと楽しんでやりたい曲になったなって思います。
――今回のツアー「MUSICK 2」もライブハウスですしね。
にしな:そう。国際フォーラムは立ったことがなかったし、席がある場所でやるライブって、またライブハウスと全然違うじゃないですか。でも、みんなからのパワーはほしいから、「MUSICK」はどうやってやろうかっていうのをすごく考えたんですけど、ライブハウスはもう考えずともみんなとの距離が近いから。もう楽しみでしかないですね。わちゃわちゃってやれたらいいですね。
――「weekly」の歌詞を見て、ヘビーだなあって思う人もいると思うんです。でもこの音で、この歌で、このリズムで歌われたら「なんか楽しいかも」って思えちゃう。それがにしなの歌の作用なのかもしれないですね。
にしな:だったら嬉しいですね。重く捉えすぎないというか。「weekly」はこれからライブで発展していって、もっと楽しくなりそうだなあって思うんですよね。みんながこの曲を覚えてくれたら、みんなの声に対してハモるとか、そういうこともできるなあって。そうやって曲を成長させていきたいですね。
――うん。みんなの歌になるといいなと思います。「わをん」もすばらしい曲だけど、にしなからのメッセージという感じがするし、「1999」とかもそうだったと思うんですよ。でもこの曲はポーンと放り投げて「あとよろしく」ってできる曲だから。
にしな:確かに、大玉転がしみたいな感じかもしれない。
――うん。「大玉を作っといたんで、あとはみんな転がしてっね」ていう。それぐらいの感覚で音楽ができているというのはいいですね。あと、このアートワークもいい。
にしな:かわいく作ってもらいました。台湾のイラストレーターの方が描いてくれたんです。なんかリソグラフをやってほしくて、無理言ってそうしてもらいました。
――なんでリソグラフがよかったんですか?
にしな:レトロさが好きなんですよ。デジタルが溢れた世の中にアナログ感がある、みたいな。ジャケットもパキッとしてるのもいいけど、そこにちょっとアナログ感が欲しかった。
――MVはどういう感じなんですか?
にしな:MVは「つくし」と同じ江田明里さんにお願いして、カメラマンさんとかも一緒のメンバーで撮ったんですけど、それもすごく楽しそうなMVになってます。いっぱい衣装を変えたり、めっちゃ早着替えしたり。私、カタツムリにもなってます(笑)。文化祭みたいな楽しい撮影でした。
――やっぱり「楽しさ」っていうのが今のにしなのキーワードだし、そこをまっしぐらにめがけて音楽を作っている感じはすごくいいなと思います。ちなみに、今は何してるときがいちばん楽しい? 音楽以外で。
にしな:えー、なんだろう……。あ、『あつまれ どうぶつの森』やってます。日課ですね。
――なんで今?
にしな:実家に帰ったらお母さんがハマってたんですよ。私はあまりゲームはやらないんですけど、お母さんがやってるのを見て始めました。だから『どうぶつの森』と、あと友達とシール交換して生きてますね。
――シール交換?
にしな:そう、女児に戻ってる感じ(笑)。シール帳作って、そこにシールペタペタ貼ってみんなで交換してます。派手なバインダーみたいなやつ。
――小学生だ(笑)。
にしな:そう。交換するときも小学生女児になりきってやってますね(笑)。
Interviewed by Tomohiro Ogawa